「バレニン」とは
■疲労大国日本 日本人の6割が慢性的にお疲れ中
1998年に厚生労働省が行った疫学調査によると、日本人の3人に1人(37%)が半年以上も慢性的に疲れを感じており、半年未満の疲労を感じている人(22%)を加えると、日常的に疲労を感じる日本人は6割(59%)にものぼっています。日本は立派な“疲労大国”です。
■肉体疲労も精神疲労も、活性酸素が疲労の原因
私たちが感じる疲労には、肩こりや眠気などの肉体的な疲労と、イライラややる気の無さなどの精神的な疲労とがあります。疲労のメカニズムは十分には解明されていませんが、ストレスや過度の身体活動により活性酸素が大量発生すると、体内のバランスが崩れ細胞の機能が低下し、作業効率が低下することがわかっています。このことから、肉体的な疲労も精神的な疲労も、どちらも活性酸素により傷つけられた細胞が、その動きの低下をシグナルとして脳に伝えている状態であり、この状態が疲労ではないかと考えられています。つまり、疲労の原因のひとつである活性酸素を除去し、酸化ストレス状態を抑えることが出来れば疲労は軽減される、というわけです。
活性酸素は体内で酸化(=サビつかせる)させますが、抗酸化物質は、細胞を活性酸素から守り、生活習慣病の予防や老化を抑制し、疲労を軽減する働きがあります。この抗酸化作用を持つ抗酸化成分にはいろいろありますが、最近注目されている成分がアミノ酸の一種の「イミダゾールジペプチド」(イミダゾールペプチド)です。
イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)は、イミダゾール基によって、一重抗酸素やペルオキシラジカルなどの活性酸素を消去する抗酸素物質としても知られています。さらに、イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)を経口摂取した場合、骨格筋に移行すると報告されており、抗酸素物質として有望と考えられています。
■イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド) 疲労回復+疲労予防 = 抗疲労力の高さにも注目!!
イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)は、抗酸化および活性酸素の消去機能のほか、筋肉持久力アップや疲労防止、疲労回復機能を持つことがわかっています。イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)は高い抗酸化力に加え、抗疲労効果がずば抜けて高いことから、昨今注目されているのです。
「抗疲労」とは、疲労からの復帰を早める“疲労回復”と、疲労しにくい状態を作る“疲労予防”の双方向から疲労に打ち克つという考え方で、この概念に基づき、現在、さまざまな食品や製品が開発されています。イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)は、マグロなどの回遊魚や渡り鳥など長時間連続した運動をする動物に多く含まれていますが、抗疲労効果があると言われている商品成分の中でも、特にその効果が高いことが実証されています。(実証結果は後述)
■イミダゾールジペプチド(イミダゾールペプチド)の種類 渡り鳥の「カルノシン」 回遊魚の「アンセリン」
ペプチドとはアミノ酸の結合体のことで、「イミダゾールジペプチド」とはヒスチジンとアラニンという2つのアミノ酸が結合したもので、「カルノシン」「アンセリン」の2種類がよく知られています。
カルノシンは、β-アラニンとヒスチジンからなるジペプチドで、鳥類に多く含まれています。渡り鳥は、カルノシンが豊富なことから数千kmを飛び続けることができると考えられており、常に翼を動かし続ける胸肉部分に豊富に存在しています。
一方、アンセリンは、主にマグロやカツオなどの高度回遊性魚類の筋肉組織内に多く含まれています。これらの魚は回遊を止めると、酸素を含んだ新鮮な海水がエラに入らず死亡してしまうため、終生泳ぎ続けますが、長時間・長距離を泳ぎ続ける運動持久力の秘密が、筋肉中に存在するアンセリンと言われています。
■第三の抗疲労成分「バレニン」発見!絶食・不眠のくじらパワーの源?
カルノシンもアンセリンも健康食品として商品化されていますが、昨今の研究結果から第三のイミダゾールジペプチドとして注目を浴びているのが、「バレニン」という抗疲労成分です。バレニンは鳥や回遊魚にはほぼなく、くじらに多く含まれるくじら特有の成分です。くじらはバレニンに加え、カルノシンとアンセリンのイミダゾールジペプチドの全てを含有しており、中でもバレニンの含有量は驚異的に高くなっています。回遊するくじらの多くは、1年の半分をエサ場である高緯度の冷たい海で過ごし、残りの半分は繁殖のためエサ場から数千kmも離れた暖かい海へ移動し、ほとんど餌をとらずに子育てをします。また、くじらは非常に長生きで、死ぬまで子供をたくさん産むことができます。半年も絶食状態で出産し、そのまま数千kmも不眠で泳ぎ続ける驚異的なパワーが、くじらの特有成分バレニンをはじめ、アンセリン、カルノシンの3種類のイミダゾールジペプチドではないかと考えられています。通常、動物が運動を続けると、乳酸などの疲労物質が溜まり休息が必要になりますが、イミダゾールジペプチドは運動によって生じる乳酸の蓄積を抑制し、運動機能を維持することが最近の研究でわかってきました。
■イミダゾールジペプチド含量(mg/100g)
出典=「鯨肉に含まれるバレニンについて」(畑中寛)
3種類のクジラのデータは釧路水試「平成21年度事業報告書」鯨種別の遊離アミノ酸組成(2009年)より